かつてバイトで、ある風変わりな友人といつも一緒にいた時期があります。
そいつとは同時期にバイトに入ったという間柄で自然と仲良くなりました。
面白いことに彼は驚くほど無邪気、純粋、邪気がなく、最初はこっちが騙されているんじゃないかと思うほどピュアな奴でした。
家に行ったらなぜかおんぼろな靴が山ほどあり「これは何だ?」と尋ねると、もったいないから拾ってきたと言い、気に入った靴があったら持っていってと勧めるようなちょっと怪しさもある奴でした。
ある朝私が歩いていると、道の向こう側で強風に倒れた数十台の自転車を一生懸命元に戻しています。(彼とは何の関係もないのに)
聞くと、その自転車が倒れている場所はいつも靴磨きのおじさんが商売している場所だから、さぞかし大変だろうとスペースを空けてあげていたとのこと。
はたまた面白い場所があるからと、夜中にビルの屋上の貯水タンクの上に誘われて一緒に星を見たこともあります。
二人で見た夜景は綺麗でしたし、守衛さんに隠れて非常階段を駆け上るスリルは中々のものでした。(まあ、いけないことではあったのでしょうが……)。
まあ、そんな奴でした。
そんな変な友人がある日、私にとんでもない勢いで走ってきて言ったことがあります。
「親男ちゃん!すごいこと、発見したよ!」(もちろんその時はまだ「親男」じゃなかったですが)
それが、
「気にしなければ気にならないんだよ!」
ってことでした。
なんだかよく分からないですが、勢いに負けてよくよく聞くと、世の中のなんだって『気にしなければ気にならない』とのこと。(って説明になっていませんが)
当たり前と言えば当たり前、深い言葉だと思えば深く聞こえるような響き。
まあ、世の中にまかり通っているありがたそうな金言格言も、深いと思えば深いようにも聞こえ、そう思わなければ「は?当たり前じゃん」ってなものです。
ということで、そいつの輝きに満ちた顔を見ていたら、確かに何だか大層なことを発見したんじゃないかという気にもなったわけです。
大抵のことは自分自身が『気にしなければ』、劣等感だろうが、コンプレックスだろうが、悩みだろうが、『全然気にならない』ということを言いたかったらしいのですが……。
残念ながらそいつはあんまり語彙が豊富ではなかったので、世紀の大発見の興奮のために私にうまく説明がつかない感じでした。
(そいつなりの例示をしてくれるのですが、例の出し方がヘタで話せば話すほど余計意味不明になるという悲しいスパイラルです)
ということで、
はるか昔の話ではあるのですが、今でもなんだかやるせないようなビミョーな気分になった時に、たまにそいつの言葉を思い出します。
「気にしなければ気にならない」って、一体全体ホントなんでしょうかね?
そんなことできるものなのでしょうか?
いまだによくわかりませんし、そう思えるくらい自分自身が吹っ切れているのか疑問でもあります。
で、そいつと私の関係がその後どうなったのかと言うと、ある日そいつは急にバイトから姿を消しました。
相当仲が良かったのでかなり残念でしたが、そもそもそんな不思議な奴だったので、そんな別れ方もあるだろう、と諦めるしかなかったというわけです。